大変お待たせしました!!
昨年開催された「東北絆テーブルカンファレンス2019」の実施レポートを掲載いたします。内容の濃いカンファレンスでしたので、レポート量も膨大ですが、数回に分けて掲載していきます。最後までお読みいただければ幸いです。
日時:令和元年11月29日(金)13:00~17:30 交流会18:00~20:00
会場:ウェスティンホテル仙台(仙台市青葉区)
令和元年11月29日、仙台市青葉区のウェスティンホテル仙台を会場に、「キリン絆プロジェクト」からの次のステージとして、岩手、宮城、福島を中心に展開している事業者が一堂に会した「東北絆テーブルカンファレンス2019」が開催された。
コンセプトテーマは「生産から食卓まで」という流れの最後のステージとなる「食卓のプロデュース」である。目的は、新たな「食卓」の提案や発信について語り合う「テーブル(場)」で、東北における事業者の連携プラットフォームを立ち上げていくことだ。
これまで培ってきた絆やネットワークを最大限活かし、事業者と東北復興支援や地域創生を行う団体とを事務局がマッチングを行う。パートナーシップによって課題解決を図り、新たなアウトプットを創出して行こうというものである。
この日は、キリン絆プロジェクトで連携する関係各社ばかりでなく、流通や金融、食品メーカー、物流、自治体などさまざまな企業や団体の人たちが集まり、今後の東北絆テーブルの活動内容に関する案内や、東北の地域課題に取り組む事業者のプレゼンテーション、パネルディスカッションなどが行なわれた。
集まった東北の多くの仲間たちは、この「絆テーブル」を一緒に囲み、地域・業種・業界を超えて連携し合い、東北のさまざまな課題をともに解決し、可能性を広げ、さらなる飛躍を期そうという、その目標を確認し合った。
カンファレンス後の交流会では、連携を求めるメンバー同士が新たなビジネスへの展開について言葉を交わした。
新たな食卓の提案と発信に向けて、多くの人々が集い、語り合う「絆テーブル」。それぞれの事業の推進に資し、そして東北の発展へと続いていく新たなつながりが、このテーブルの上にたくさん生まれていくことだろう。
《開会のあいさつ》
株式会社ひろの屋 代表取締役 下苧坪 之典様
キリン絆プロジェクトでは、数多くの事業、たくさんのご縁が生まれ、各地域に強いリーダーが誕生しました。東北というかけがえのない地域のために、私たちはつながりを大切にしながら邁進してまいりました。その絆を再認識し、未来に向けた活力ある社会を創出し、そして、東北の食を日本のみならず世界へ発信しうる強いブランドにしていくことが私たちの共通課題であり大きな使命です。
本日は農林水産業者ばかりでなく、自治体や金融機関、小売り、流通など多方面の方が一堂に会しています。東北の食をさらに前へと押し出していく強い連携が生まれ、「東北絆テーブル」が新たな絆をつくるプラットフォームになりますことを願っています。
《来賓代表のあいさつ》
宮城県副知事 佐野 好昭様
本日はキリン絆プロジェクトで支援を受けられた生産者の皆様がお集まりです。事業者様の懸命のご努力で地域の再生・復興・発展へと歩みを進めて来られました。本日は皆様が抱えておられる事業課題をともに解決すべく、地域や業界の枠を超えたネットワークの創出を目指して事業発表や意見交換、企業・団体とのマッチングが行われる場です。この取り組みを通じ、新たな結びつきや事業のアイデアを見出し、ますますの地域発展へとつながっていく契機となることを期待しています。
《キリン絆プロジェクトのあゆみ》
キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部 絆づくり推進室長・永元禎人
今日、CSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)は世界的に進化し、新たなフェーズに入っています。フードロスや海洋プラスチック汚染など、企業が取り組むべき課題が浮上しています。持続可能な世界の実現のためにキリングループも先行して取り組みを始めています。
また、CSRは、CSV(Creating Shared Value=社会的価値と経済的価値を同時実現する共通価値の創出戦略)へと変化していかなければ、企業経営が成り立ちにくい時代になりつつあります。
キリン絆プロジェクトのスローガンは「笑顔で結ぶ。人を、日本を」です。第1ステージでは主にハード面への支援を、第2ステージではソフト面への支援ということで、地域ブランドの再生と育成、6次産業化の推進、東北を支えていくこれからの人材・リーダーの育成などに傾注してまいりました。
そして、東北のリーダーと中央のビジネスマンをマッチングして新しい農業ビジネスの創出支援を行うことをCSRとして取り組みました。次に、リーダーが地域活性に取り組むためのステージアップをCSVとして支援してまいりました。さらに、こうした東北の知見を全国展開する「地域創生トレーニングセンタープロジェクト」も2016年から開始しております。
リーダーたちが、民間で新しい組織体をつくり、キリングループも含めた企業が支援して新しいステージへ移行する。地域と日本の未来を創る。そういう進化の取り組みを進めています。
ともに考え、具体化していく。「東北絆テーブル」は、東北復興支援に関わった仲間たちの進化に向けた新たなアプローチです。
《東北絆テーブル ~本日の趣旨説明》
有限会社マイティー千葉重 代表取締役 千葉大貴
ハード支援からソフト支援、そして「つながる支援」へ。生産から食卓へとの支援を続けてきた中で、これからは「食卓をどう作っていくのか」が求められています。食卓にこそ笑顔と幸せがある。そこから「絆テーブル」というモチーフが生まれました。
スペインのバスク地方には「悲しいことも嬉しいことも、すべてはテーブルの上で分かち合う」ということわざがあります。
悲しいことがたくさんあった東北ですが、これからは楽しいことも共有していける地域であってほしいと願い、コンセプトにテーブルという言葉を使っています。
人口減少や担い手不足など、東北が抱えている地域の課題を「東北絆テーブル」という取り組みを通じて解決し、新しい地域の未来を創っていく。その食卓を囲むのは、東北という一つの家族です。今、東北で生まれているさまざまなテーブルをもっとつなげて広げて、東北を活性化させて、幸せな地域づくりのための思いをマッチングすることが、本日の大きなテーマになります。
ビジネスを始めるときには必ず「思い」があります。それをしっかりとつないでいくことが東北に必要なことと考えています。違う業界同士でも、あんなこと、こんなことができるのではないか。どんどん情報を発信し、受信する。そして次の時代のことも思いながら、皆でつくれるものは何か。本日はそういったことを考えていく場にしてまいりたいと思います。
《導入 ~トークセッション》
登壇者
一般社団法人RCF代表理事 藤沢 烈様
有限会社マイティー千葉重 代表取締役 千葉 大貴
藤沢:
東日本大震災からのこれまでの8年半を簡単に振り返ってみます。
復興は着実に進められてきました。ただ、沿岸部は産業面では96%の回復率です。戻り切っていない厳しい状況があります。
その理由として「お客様が失われた」「従業員不足」などが挙げられています。しかし、売り上げが戻った人もいて、その理由として「新しい商品をつくったから」「新しい販路を開いたから」と答えています。これは新たな取り組みが回復への入り口であったことを示しています。
国の方針では、これから10年間の課題として「適切な事業支援の在り方の検討」「対象地域の重点化」などを掲げています。要は選択と集中です。
でも私は、それだけではなく、新しい取り組みを進めている人たちをさらに一歩後押しすることで、地域全体を発展させることと考えます。厳しいところだけを支えるのではなく、国や行政は希望ある取り組みを後押しする流れをつくってほしい。
福島県については、やはり厳しいところがあり、農業再生率19%、水産業についても30%にとどまっています。
担い手不足という点では、生産者の高齢化が進んだことで復活をあきらめているという現状もあります。やはり担い手=リーダーの育成が重要となっています。
福島の産品について、消費者は実際のところ思うほど気にしてはいない。でも中間の流通業者が「売れないのでは?」とネガティブに考えている傾向があります。幅広く情報を発信という方法もありますがもう少しピンポイントの対応があるではないかという議論もあります。
また、今、全国で災害が多発している中、東北での復興の経験はとても貴重です。それを広めていくことも国や行政の方針として挙げられています。
そして「協働」です。生産者、行政、企業、私たちのようなNPOなどが連携した事業の創出も重視されています。
次に、国が掲げる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」についてです。
今年度までの5年間が第一期。来年度から第二期に入っていきます。その中から2つお話しします。
まず「関係人口」について。定住人口でもなく、観光に来る交流人口でもない、でも地域に関わってくれる人たち。こういう人たちの増加が第二期の柱に掲げられています。
私見ですが、国は「地方の人口減少は止められない」ということを前提にしたのではないでしょうか。人口が減っていく中で、どうやって地域を持続的に守っていくのかを考えたとき、もう地域の中の人だけでは成り立たない。地域外の人たちと一緒になって守っていかなければなりません。本日のテーマにも係ってまいりますが、都市部の人や企業と地方が、あるいは東北の地域間が連携してノウハウを共有する。本日のような集いに対しては、国も大いに期待をしています。
もう一つは「企業版ふるさと納税」です。例えば、企業がある地域に1億円寄付したとします。すると6000万円の法人税が自動的に減税になる制度です。つまり企業負担が減る。これは極めて画期的なことです。
企業は、もっと自治体と組んで事業をつくっていかなければいけない。地域を担うのは、もう自治体だけじゃない、ということを国が強く感じているということです。減税分は自治体に行きます。企業は自治体にもっとかかわって一緒に汗を流して事業をつくる。そういうメッセージです。
来年以降、企業による地域プロジェクトが生まれて行くのは確実です。地方もまた企業をどう巻き込むか。それによって差が出てくるでしょう。
私は企業と地方を繋げる立場で仕事をしてきました。東北を中心にますます応援してまいりたいと思います。
千葉:
新しい取り組み、新たな商品を生み出したことが回復に結びついた具体例として、どのようなものがありますか?
藤沢:
従来の商品、流通チャンネルだけでは元に戻りません。ネットで販売するとか、地元だけでなく東京へ卸すとかという取り組みが大切でした。
千葉:
商品開発では新たな生産ラインの設置など設備投資も必要です。次のステージをつくる力があるかどうかも大事ではないでしょうか。
藤沢:
次の時代を見据えて手を打つとき、どこに投資をするか。そういうチャンスを持っているかどうか。それが大きかったと思います。
千葉:
とにかく新しいものをつくろう、投資しようではなく、それをどう継続させていくのか。次の世代も見据えて発展させていく視点も大事ですね。
藤沢:
工場規模を倍にしても売り上げが倍になるとは限りませんし、倍にしてから売り上げを考えてもうまくいかない。お客様の方から交渉に足を運んで来てくれるぐらいに準備することです。復興庁が行っているクラウドファンディングなどは「先にお客様を見つける」というのが本質。先に払ってもらう。先にマーケットを見つけて約束を取り付けることなのです。今日のこの場、この集いこそが勝負です。
千葉:
新しい試みには新しい担い手や新しい連携が必要です。そうしたいろんな連携が成功されている企業の特徴は?
藤沢:
緩やかにつながって、本当に形になるのは一年後ぐらいだったりします。今日名刺交換をして明日取引が成立するかといえばそうじゃない。
今はSNSなどでつながることもできます。そうした発信を一年二年と続けて、信頼を獲得し、そうして連絡が来る、と。そして、つながったあとも見られ続けているのです。
千葉:
やり続けることの大切さはあると思います。毎年予算を立てて復興支援を続けることの大変さを思うとき、やはりCSV的な、お互いに価値をつくっていくという活動に移行していかなければ継続しませんよね。
藤沢:
支援という言葉ももう適切ではないのかもしれません。国や政治とつながりをつくっていくために仕掛け方にも変化を続けていくことが必要です。今日会場に来られている方は、地域で声を上げていない生産者や業者の方を取りまとめる立場の方々ではないかと思っています。地域一丸となって、これからどうするのかということを発信していただきたいです。
千葉:
今日お集まりの皆さんも連携し合える人たちがたくさんいらっしゃると思います。では、なぜこれまでできなかったのか。そしてどうすれば連携し合えるのでしょうか?
藤沢:
連携という言葉はもう8年半、ずっと言われ続けてきました。これからは連携すればいいというのではなく、どういった連携をするのかということを真剣に考えなければいけない時期に来ています。支援する側も受ける側も吟味して、考えて、絞っていかなければいけません。
千葉:
「地域創生トレーニングセンタープロジェクト」には、全国の若手経営者、行政のリーダーなどが参画してきています。地域の中で連携しようと言いつつ、連携の仕方が分からない。でも他地域を見ることでヒントがあったりします。東北はある意味、食べ物や自然など恵まれていて、なかなか外へ出て行きません。
もう一つは「思いを発信する」ことの大切さです。思いが強くて発信を続けると、いろんな人が集まってきて、勝手にプロジェクトになったりもする。連携しようって考え続けると疲れちゃう。でも思いを発信し続けることで、お客様やパートナーが集まってくる。そこにも新しい取り組みの契機があるのではないかなと思います。
藤沢:
共感します。外へ出て行くことはマーケットに向かっていくこと。それは東京にあるのかもしれない。海外かもしれない。マーケットの匂いというか営業的な視点が大事です。支援というと、日本は寄付などが弱くて国が大きな枠組みを決めたりします。企業には大きなお金があったりするのは確かなので、意義あるところへ届けたいという思いがあります。私は皆さんの代わりに営業を行うエージェントです。私にとっての連携とは、そういう繋がりをつくること。皆さんも、どこへ営業に行くのか、が大事です。
千葉:
意義って大事ですよね。インターネットが普及し、素晴らしいストーリーに触れられる時代でもある。意義がすごく求められています。
藤沢:
ストーリーを発信することは、SNSの時代にはとても大事なことです。タイムラインの裏ではダイレクトメッセージがすごく飛び交っている。私たちはそれを見て支援先を決めています。乗っかってきていただかないと動きが分からない。「いいね!」を押しているだけじゃなく、自ら発信することで連絡が来ることもある。
ネットで流れていないということは存在していないのに等しい。実物に触れなくてもネット上にあるということで取引になってしまう。だからリーダーは情報をどう発信するか、です。面倒な時代になってきました(笑)。
千葉:
計画の質を上げていく時代から、これからはネットで意義やストーリーを探しながらクオリティ=社会の質を上げていく時代と言われています。
そうすると関係性も変わってくる。単においしいものを売るだけじゃなく、一緒に考え、一緒に社会を良くしていく時代になって行く。
藤沢:
何のためにつながるのか? ということです。社会貢献って、きれいごとではなく、そこができていないとダメな時代。その関わり方はさまざまですが、そこを置き去りにしては、これからの企業や事業者は生き残っていけません。社会づくりの案内役として、私や千葉さんがいます。今後ともお付き合いを続けながらそんな社会づくりを一緒に進めてまいりたいと思います。