《プレゼンテーション 第一部 テーマ「つながる」》
一般社団法人 F’s kitchen ファーム白石 白石 長利様
私たちは、震災後、いわき市で活動を開始したシェフと生産者の集まりです。立ち上げの背景には東日本大震災があります。初めはいわき市の「Hagiフランス料理店」の萩シェフと2人でした。生産者はお米や野菜は作れます。でもそれを食卓に載せるときシェフは必須です。一方、シェフにとって最高の料理を作る時には最高の食材が必要。そこに「同じ思い」があったのです。
やがてメンバーも増え、活動内容は広がりました。今は、農家が得意とする現場に人を呼んでくること、中高生の農業体験などに取り組んでいます。シェフたちによる食育をテーマとした料理イベントや、生産者とシェフと消費者によるイートミーティングなども行っています。
8年前の大震災では、自分は耕地のダメージは受けていません。しかし、今秋の台風では水害に遭い、津波被害を受けた方々の気持ちが重々理解できました。私のところへは「キリン 絆プロジェクト」でつながった仲間や全国の多くの方々が応援に駆けつけてくれました。仲間がたくさんできたということが、この8年間で大きく変わったことです。
今日、いちばん伝えたいことは「つながり」です。この場を借りて皆さんにお礼を申し上げますとともに、助け合う、協力し合えるネットワークを、今日ここでより強固に構築できたらと願っています。
水月堂物産株式会社 常務取締役 阿部 壮達様
「ほや酔明」という当社の商品を通じ、ホヤの消費拡大についてお話をさせていただきます。
「ほや酔明」は発売開始から38年が経つ商品で、東北新幹線での車内販売は当社の売り上げの40%を占めていました。ところが2019年3月をもって新幹線車内のワゴン販売が終了となったのです。通知を受けたのは終了の一カ月前でした。
早急な営業判断に迫られた中、選んだのは「他に販路を求める」ということでした。JRへ再度交渉に行くと「車内販売はできないが駅店舗などでの販売は可」という回答を得て、同マーケットの小売り事業会社や他地域のマーケットへ突撃し、それまで配荷できなかった会社との商談も成立しました。また、全国放送のバラエティ番組でも取り上げていただくなどして、一時は「倒産か?」とも思ったこの大きな危機を何とか回避いたしました。
気付いたのは「大ピンチは大チャンス」ということでした。会社経営の根幹に関わるような危機を乗り越えると、新しい手を継続できる。つまり永続性が生まれます。
現在、ホヤは消費量として年間8000トンも余っています。認知度の低さ、歴史的背景、管理知識不足なども原因としてあります。なので、皆さんにもっと食べていただくために、イメージ向上のための新商品開発や新たなマーケットの発掘、行政や同業者と連携したPR活動などを展開してまいります。
ほやほや学会 会長 田山 圭子様
当学会ではホヤの認知度向上と販路拡大に取り組んでいます。
これまでホヤは韓国に多く輸出されていましたが、現在はピーク時から7割減という状況で、消費の拡大が課題となっております。
一社一社が販売をがんばっても追いつきません。私たちは、生産者と加工会社とでチームを組み、漁協や飲食店、県、復興庁などのご協力をいただきながらホヤファンを増やし、みんなで盛り上げて行く活動を行っています。
まずは「ホヤの活躍の場を広げる」こと。生ばかりでなく、さまざまな加工や調理を提案します。ホヤには生臭いというイメージもありますが、ご試食後のアンケートでは8割の方から「おいしい」と言っていただきました。
次にファンの育成です。SNSでは「#ほやLOVE」というハッシュタグキャンペーンの発信や、漁場現地を訪れる「ほや尽くしツアー」、「ほや伝道師」認定といった活動も行っています。
そして「認知度向上・ブランド化」への取り組み。有名シェフの方からも「ホヤは世界四大珍味。洋食にも合い、高級食材になる可能性がある」とおっしゃっていただいています。アルツハイマー症に有効とされるプラズマローゲンという成分のほか栄養価も高い食べ物です。食べ方も、さまざまなコラボが楽しめる可能性があります。新商品開発にも着手し、さまざまな商品を通じてホヤの魅力を発信していきたいと考えています。
《パネルディスカッション 第一部 テーマ「つながる」》
登壇者:白石長利様 阿部壮達様 田山圭子様
コーディネーター:藤沢 烈様
ファシリテーター:千葉 大貴
千葉:
白石さんは、東日本大震災のあとのつながりにとても救われたとおっしゃいました。大きく変化したことなどはございますか?
白石:
震災以降フェイスブックに参加したことが自分の大きな変化でした。風評被害に対して行政が懸命に頑張っている中で、自分たちも情報発信をすべきと考えたのです。
当初「いわき市の農産物は安心・安全です」と発信していましたが、やがて、良いことも悪いことも全部さらけ出そうと。見てくださった方に判断を委ねることにしました。その結果、料理人や東京の消費者などにも見てもらえた。そういうつながりができました。自分はみんなをつなぐ「ハブ農家」を自称しています。
藤沢:
親戚のようなつながりができたともおっしゃっていましたね。SNSでそこまで深くお付き合いできる人ができたのはなぜでしょう?
白石:
いろんな人の情報を受信し、共感できた人には必ずコメントを入れ、また、自分でも発信しています。SNSでも意思を交わせる。良いことも悪いことも刺激的でなければいけないという関係をつくってきました。自分にとっての「つながり」とは、自分にないものを教えてもらい、補ってもらう手段の一つかなと思っています。
千葉:
ホヤは、今、消費の伸び悩みや輸出量減などで危機を迎えている食材です。「冬でも食べよう」というのは、やはり消費拡大を目指してのコンセプトですか?
田山:
ホヤは初夏から夏の食材とされています。でも、食べ方のバリエーションとともに食べるシーズンも広げたい。保存技術も進みました。旬の時期に冷凍したものはおいしく解凍でき、使いやすくてロスも少ない。お店にとってもメリットがあります。水揚げしてからいかに短い時間で加工するかが秘訣です。
阿部:
冬のホヤはあまり出回っていません。好きな方は冬のホヤも愛してくださいます。仙台駅前にも冬ホヤが食べられるお店があります。どんなホヤもスピーディに冷凍すればおいしく、夏のホヤと比べても遜色がありません。2月には、田山さんと一緒に「ほやフェア」を実施します。
藤沢:
消費量7割減は大きい。だからこその新しい取り組みですし、つながりたいという飲食店側は逆にチャンスかもしれません。
阿部:
飲食店さんとのつながりも重要ですが、旅行者の方に「仙台のおいしいホヤを食べていただく」というのも大事ですね。しっかり管理されたいいホヤを出していただければホヤ好きは必ず増えます。業界としても学会としても飲食店さんとのつながりを強固にしたいです。
おみやげとしても、牛タンや笹かまの地位をホヤが奪う。そうなれるよう取り組んでまいります。
千葉:
酒蔵さんは、出荷したあと、飲食店を回ってコミュニケーションを図ることが多い。飲み方や酒肴などもおすすめする。それがブランディングの価値向上にもつながっています。商品を売るだけじゃなく、味わってもらうというソフトの部分がとても大事と感じました。
白石:
いわきは東北の玄関口です。東京からのお客さまを増やし、そしてもっと北の東北を紹介することも自分の使命の一つと感じています。宮城や岩手の生産者の皆さんともつながり、東北全体の魅力を発信したいです。そして、南にもおいでいただきたいと思っています。